昆虫採集


江戸の町外れにある寂れた宿の一室では、今まさにそこを後にしようとする複数の人間の姿があった。
ある者は紙束を見直しつつそれらを束ね、ある者は自身の武器である銃の様子を確かめ腰元へと収め、ある者は悠々と爪弾いていた三味を自身の背へと戻していた。
そして、そんな彼らに背を向ける形で部屋の窓辺から外を眺めている男がポツリと言葉を漏らす。
「アゲハチョウ、みてぇだな」
「え、なんすか?晋助さま」
男の言葉にいち早く反応したのは腰に銃を携え明るい桃色の奇抜な形をした着物を身に纏った女で、嬉々とした様子で聞き逃した言葉を聞き返しつつ、声を発した男へと駆け寄る。
「黒アゲハかねぇ」
近寄ってきた女に目をくれることなく、男は部屋の外のある一点をジッと見つめ続けている。女はそんな男の視線を辿るようにし、その先にあるものを目視したとたん、小さく悲鳴を上げた。
「どうしたでござる?」
三味を背負った男が黒眼鏡の奥にある瞳を怪訝そうに細めつつ女の背後へと近づいたが、男が女の元に到達する前に女が振り返ってどこか焦った様子で男へと言葉を告げる。
「真選組の奴らっスよ!」
「なに?」
女の言葉に男が色眼鏡のせいだけではなく実際に暗い外の景色へと目を凝らせば、宿の裏手にあった廃工場の天井窓から、数十人の着物を着た男たちが刀を構え、黒い洋装姿の男たちに斬りかかっているのが見て取れた。
斬りかかって来る着物姿の男たちに対し、洋装姿の男たちも刀を携え迎え撃っていたが、その中でも彼らの先頭に立ち、着物の男たちを次から次へと斬り捨ている男が一際目立っていた。それを確認した男は黒眼鏡の奥の瞳を傍らへ、一番近くにいた女ではなく、女の奥でいまだに一点だけを目で追い、どこか楽しげに口元を上げている男へと移す。
「晋助」
そんな男に声をかけてみたが、応えが返されることはなく尚も男の視線は窓の外へと留め置かれていた。
しかし声をかけた方も最初から返事を期待していなかったのか、振り向かない男に向けて再び言葉を告げる。
「今日は帰ったら宴があるでござるよ」
その言葉に男はようやく視線をチラリと自分に声をかけてきた男へと向ける。
小さくこちらに向けた顔の半分は白い包帯に覆われ、片目だけを動かし自分の姿を目視した男にため息をつきながら、黒眼鏡へと軽く手をやりその手をそのまま自身の前にいる女の頭に乗せる。男に頭を軽く押さえられた女はハッとした様子で目の前にいる包帯姿の男へと詰め寄りながら言い募る。
「今日は晋助さまの誕生日っスよ!?帰ったらパーティーするってみんなにも言ってあるっス!」
女の言葉を聞き、男はジッと黙ったまま女を見つめた。
そんな男に女は少したじろいだように身を固くしたが、それでもなお引き下がることなく自分の意を相手へと伝えようと口を開く。
「みんな、今日を楽しみにしてるっス。年に一度の祝い事っスよ?」
そんな女から男は視線を外し、ゆっくりとした動作で窓辺から身体を離す。
そしてそのまま部屋の出入り口に向けて歩き出した。
「晋助さま!?」
「いつも言ってんだろ?そんなくだらねぇ祝い事なんざに興味はねぇ」立ち止まることなくそう告げる男に女が再び口を開きかけるのを、女の背後にいた男が肩に手を置くことで止める。
「どこに行くでござるか?」
その言葉を聞くと、歩いていた男は足を止めゆっくりと振り返り、口元にうっすらと笑みを浮かべ隻眼を細めた。
「昆虫採集だ。俺の誕生日を祝う暇があったら虫籠でも用意しとけ」

部屋を後にした男はそのまま宿の外へと足を進める。
先ほどの騒ぎはひと段落着いたのか、宿の玄関先の大通りでは着物姿の男たち数人がパトカーへと押し込められていた。
それをちらりと見やり目的の物がそこにないのを確認すると、ゆったりとした足取りで宿の裏手へと足を向ける。
そんな時、1人の黒服の男が廃工場の裏手にある扉を開け、こちらへと走ってくる姿が男の目に映る。
あちらの方も自分へと近づいてくる人影に気付き怪訝な顔を浮かべたあと、その表情は一瞬のうちに驚愕へと変わり、慌てたように腰元に携えた刀へと手を伸ばす。
しかしそれが引き抜かれることはなく、早く鋭い閃光が男の身体を走り、どさりという音を立てその場に倒れ込んだ。「邪魔だ」
そう告げ足を進めれば、先ほどの倒れ込んだ音に気が付いたのか、工場の裏口が再び開き男が顔を出し、目前の状況を把握すると同時に目を驚きで見開かせつつ声を上げた。
「高杉晋助!!」
その声が発せられたのと同時にその人物へと向けて、先ほど黒服の男を斬り捨てたときに抜いたままだった刀を振り下ろす。
しかしそれが目の前の人物を切り裂く前に、その人物は襟首を引っ掴まれた上、そのまま後ろへと投げ飛ばされたため、振り下ろされた白刃は同じく美しい直刃をした刀によって受け止められた。
素早く自分の刃を受け止めたのが誰かを確認した男は、ようやく目的の物を発見でき喜びで口元を上げる。
そんな目の前の男の変化を気に止めた様子もなく、刀を受けた人物は自分の背後で尻餅をついている男に向けて檄を飛ばす。「パトカーの無線使って応援呼んでこい!」
そう告げる間にも双方の刃が上へ下へと激しく音を立てて合わさりあっており、地べたに座り込んでいた男は呆然とそれを見つめていた。
「ボヤボヤすんな!早く行け!」
再びそう怒鳴りつけられ、ようやく震える足に力を込めながら立ち上がり、自身も立ち向かおうと刀を構えかけるが、張りのある怒鳴り声がぶつけられる。
「お前はとにかく応援呼んでこい!」
「でも副長が…っ!」
「俺は大丈夫だ!総悟たちもそろそろ捕り物終えてんだろ!?呼んでこい!」
その言葉に一瞬、そう告げた人物とその人物に向けて楽しそうに刀を振るう男を交互にみやり、「はい!」と声をあげると踵を返して駆け出した。そんな男をちらりとその隻眼で追った後、自分の目の前にいる人物へと視線を戻す。
「逃がしてやったのか?」
「あぁ?何言ってんだ、てめぇ。てめぇを確実に捕まえるための作戦だ」
そう返された言葉に小さく笑ったあと、ふいに刀の動きを止めて相手を見つめなおす。
黒い洋装姿は先ほど斬り殺した男や今さっきここを出て行った男とは違う形のものであり、首元には白いスカーフが巻かれ、ベストとジャケットを身に纏う男をゆっくりと観察するかのように眺めた。
男のそんな視線に相手は怪訝な表情を浮かべ、その薄墨色の両目で睨み返してきた。
相手の意志の強そうな両方の瞳を、片方しかたない瞳でジッと見つめ返した後、再び小さく笑い刀を構える。「おめぇ、副長の土方か?」
「だったらなんだよ。」
「俺の名は知ってるか?」
「当たり前だ。過激派攘夷浪士の高杉晋助。大人しくお縄を頂戴しろ」
そんな言葉を向けられた男、高杉は喉の奥で笑い、目の前の男、土方をみやる。
「お縄を頂戴しろ、ねぇ。そんなこと望んでるようには見えねぇよ、お前ぇの目は」
この数分の中、高杉が感じ取れた土方の内面は、負けず嫌いで直情型、しかしそれをカバーする冷静な判断力と類稀なる危険察知能力を有する、組織の指揮者として申し分のないものであった。
しかし何より高杉の目を惹いたのは、先ほど自分と打ち合いをしたことで土方自身も高杉との実力差を把握したであろうにも関わらず、どこか楽しげで、捕縛のための時間稼ぎなどではなく、ただただ高杉との斬り合いを続けようという素振りを見せる、挑発的な瞳だった。そんな瞳と視線を混じり合わせて数秒後、土方が地を蹴り高杉へと間合いを詰めてきた。
自分を突き刺すかのように向かってくる刃を高杉は軽く受け流し、そのまま足払いをかけようとしたが、それに一瞬早く気付いた土方が体勢を立てなおし高杉から距離を置く。
「めんどくせぇぐれぇに反応が早ぇな」
難詰しているように見えてどこか余裕そうな態度を崩さない高杉に対し、土方は苦々しく「そりゃどうも」と告げ、再び刀を構える。
「まぁでも、遊びはしめぇだ。今さら違う虫籠にしまわれちゃかなわねぇ」
「なに?」
高杉の言葉を土方が聞き返したのと同時に、高杉はコンクリートで固められた地面を草履で小さく音を鳴らして擦らせたかと思うと、一瞬で土方の間合いへと詰め寄り、刀を構えていた土方の腕を掴み捻るようにして刀を落とさせるのとともに、足を払い土方をその場に倒れさせた。それと同時に高杉は持っていた自身の刀で土方の肩口を地面に固定するかのごとく突き刺し力を込める。
肩を走る激しい痛みに思わず上がりそうになった声を、必死な様子で堪える土方を上から見下ろしながら、高杉は口角をゆっくりと押し上げた。
「ざまぁねぇな」
高杉がそう声をかけると、痛そうに歪んでいた土方の表情は屈辱と憤怒のそれへと変わり、高杉をきつい眦でしっかりと捉えて見据えた。
「気が強ぇな。そういう奴は嫌いじゃねぇぜ?」
「お前に好かれても嬉しくねぇんだよ」
「そうかい。でもまぁ、お前の感情は関係ねぇがな」
高杉はそう言うと、肩口の刀をそのままに、その柄から手のひらを離し、両手で土方の首元を包む。
「刀持ってんのに絞殺かよ」「この状況でもおめぇは口が減らねぇな」
そう零しつつ小さく笑うと、首にかけた手に力を込めながら高杉は土方へと顔を近づけ、いまだ何かを告げようとしていたその唇を塞いだ。

気を失った土方を部下たちが用意した廃屋へと連れ帰り、殺風景な部屋へと横たえじっくりとその姿形を舐めるように見つめる。
肩口からは血が流れその部分だけ黒いジャケットが赤黒く変色していた。
それに目をやった高杉はかすかに眉をひそめたあと、そのジャケットへと手を伸ばしそれを脱がせ、ついでのようにスカーフやベスト、シャツ、ベルトを外しボトムと下着、土方の肌を覆っていた全ての衣服を取り払う。
惜しみなく晒された土方の素肌は透けるように白く高杉は思わず目を奪われた。
そして誘われるままにそっと手を伸ばしその白い首筋から鎖骨へと指を滑らせる。
鎖骨へと伸びた手はそのまま肩口へと進み、そこだけ赤く染まっている傷口周りに指を這わせ、ゆっくりと傷口に指を差し入れる。それは土方に当然のように強い痛みを与え、失くしていたはずの意識を取り戻させるには充分すぎるものであった。
土方が完全に覚醒し暴れだすその直前、高杉は土方と一緒に持ち帰った土方の愛刀を素早く引き寄せ、鞘から引き抜くと土方の太ももへと突き刺した。
その突然与えられた痛みの衝撃に、土方は起こしかけていたその身体を再び床へと戻しつつ、有りっきりの声を喉から溢れ出させて叫んだが、それが長く続くことはなく、土方の声は白いスカーフとともに土方の口内に押し込められた。
布で口を塞いでいるために痛みを耐えるために息を吐くことも出来ず、上がった息を整えるため肩で息をしようとすれば、傷つけられた肩が痛んだのか小刻みに身体を震わせている土方を、ジッと高杉は見つめその隻眼へと焼き付けていたが、おもむろに立ち上がり剥ぎ取った土方のボトムへと向かうと、そのポケットから手錠を抜きとり、再び戻って土方の身体の前で土方の両手に手錠をはめ込んだ。そして高杉は土方の荒かった呼吸が少し治まるのを眺めながら「おめーは赤が似合うな」と言葉を漏らし、独り言のごとく続ける。
「肌が白いからかねぇ。赤色がよく映える」
そう高杉はうっそりとした様子で言い口元に笑みを浮かべたかと思うと、おもむろに唇を傷口へとあて傷を抉るように舌先を差し入れる。
ピチャピチャと耳の近くで聞こえる音に、土方は信じられないという気持ちと耐えがたい痛みを感じながら、自分の肩口で揺れる紫紺の髪を目の端に映し続けた。
丹念に肩口の血を舐め取った高杉はゆっくりと顔を上げ、唇を土方の血で赤く染めながら間近で土方と視線を合わせる。
その異様な姿に土方が痛みも忘れて身をよじらせると、高杉は楽しげに口の端を上げ隻眼を細めつつ土方をみやり、土方の頬をゆっくりと指でなぞった。「てめぇのことは殺さねぇし死なせねぇ。てめぇの持つ情報なんざにも興味はねぇしな」
高杉の言葉に土方の柳眉が寄り、先ほど浮かべていた困惑の表情が歴然とした怪訝な目つきへと移り、高杉を見つめ返してきた。
「俺が興味あるのはお前ぇだけだ、土方。せいぜい俺を楽しませてくれや」
そう言うと高杉はおもむろに手の平を下半身へと這わせ、土方の中心を握り込む。
ゆっくりと確実な動きで土方自身を刺激させつつ、つらつらと世間話でもするかのように高杉は軽い口調で言葉を紡ぐ。
「虫を採った後は、捕まえて生きたまま観察する方法と、一思いに殺して綺麗なまま一生飾っておく方法があるんだがな。俺はてめぇを飾りてぇが殺すには惜しい。いくら綺麗でも反応がねぇとつまんねぇだろ?こういうのはよぉ」そんな言葉が高杉の口から零れ落ちる合間も、高杉の手の平は土方の物を育て上げてるため、的確な動きをしていた。
少しずつ溢れ出して来る蜜を押し戻すかのように鈴口に親指の腹をあて擦り、そのついでのように蜜を零す先端へと爪を立てる。
ぐりぐりと穴を広げるかのように動くその指に、土方は身体を小刻みに揺らしながら迫り来る快感から逃れようと顔を背け右頬を床へと押し付けていた。
そんな土方の様子をちらりと目で捉えたあと高杉は再びゆっくりとした口調で声を発する。
「そういえば、いつだったか、誰かが言ってやがったな。俺の周りには蛾が集まるんだとよ。…でも、てめぇは違ぇ。どんなに似てても、お前は誘蛾灯には集まらねぇ。なぁ、そうだろ?」問いかけてはいるものの、今の状況で答えが返ってくるはずのないことは解りきっていた。
だからこそ高杉は笑みを浮かべながら「だったら」と間髪要れずに言葉を続ける。
「虫取りに赴くしかあるめぇよ」
そう告げると身を屈め手で包んでいた土方の物に舌を裏筋に這わせ、睾丸を指で弄り始めた。
高杉が舌と手の動きを少しずつ早く強くしていくと、顔の左右にあった土方の足に少し力が入り、そのすぐ後、高杉の口内に勢いよく白濁が飛び込んできた。
それを軽く嚥下し、口内に残しておいた分を自分の手の平へと吐き出し、それを指に絡めると、土方の蕾へと手を伸ばしゆっくりと差し入れようとそこに指を這わせる。
指が蕾へと押し入ろうとした寸前、嫌がるかのように土方が小さく身を引きかけたが、太ももに突き刺したままの刀を掴み抉るように奥へと切っ先を進めた。その痛みに土方が動きを止めたのを上から見やりながら「てめぇのために慣らしてやろうと思ったんだがな。まぁいい」と呟き、刀で留めていない反対側の太ももの裏へと手を差し入れ、足を広げるように持ち上げる。
「なぁ土方、蝶の飾り方って知ってるか?」
そう土方に尋ねてみれば、返ってきたのはうっすらと涙で滲みながらも、それに相反するかのごとく憎悪に塗れた瞳だけであった。
それでも高杉は満足げな表情で「羽が千切れねぇようにしつつ」と歌うように楽しげに口にしながら、赤く血が流れる太ももを一撫でしたあと、自身の着物の合わせを寛げ、下帯から自身を取り出すと軽く扱くと、そのまま土方の蕾にあて、奥へと向けて押し入れた。
慣らしもせず行われた挿入の痛みのせいで、土方がくぐもった叫び声をあげたが、それに混じってきつい締め付けによって奥へと進めず辛そうな高杉の呻き声もあったが、高杉は自身の苦痛をそのままに、身体を折り曲げ土方の耳元へと口を寄せると、先ほどの続きをそこに吹き込む。「針で蝶を固定すんだよ」
土方はそんな風に耳へと直に吹き込まれた高杉の言葉も聞き取れないほど、苦痛に顔を歪め、その痛みを払うかのように顔を左右に何度も揺らしていた。
「だから言っただろ?てめぇのために慣らしてやるんだって。まぁさすがにこのままじゃ俺も辛ぇ」
そうぼやくように言うと、押し入れていた自身をいったん土方の中から引き抜き、指を再び蕾に当てたが、ふと太ももから一筋ずつ流れ落ちている血の滴りへと目をやる。
「ちょうどいいな」と声を漏らすと、刀の周りに浮かぶ血の雫で指を浸すように、指の背を傷にあて強く押した。
先ほどから高杉によって連続で与えられる痛みに、土方の目がどこかうつろになりそうになっているのに気がついた高杉は、笑いを含んだような声で土方へと声をかける。「こんぐれぇで意識、飛ばしてんじゃねぇぞ?つまんねぇじゃねぇか」
とたんに生気がもどり、高杉を射殺しかねない視線を向けてきた。
それを受け、楽しそうに笑みを浮かべた高杉は血に塗れた指を蕾へと差し入れる。
ゆっくりと奥へと指を進め、探るように指を動かし続けると、その指がある一点を掠めたとき、異物感で身を硬くしていた土方の身体が大きく跳ねた。
その反応に土方自身も信じられないとでも言うような表情を浮かべ、高杉へと視線を向けてくる。
それに対して「知らねぇのか?男はここでも感じんだよ」と目を細めながら告げると、先ほど反応のあった場所を繰り返し指先や指の背で押し嬲る。
何度もそれを続け、ようやく緩んできた蕾に数本の指を差し入れ、土方の身体の奥にあるしこりを摘むようにしてみれば、もっととでも言うかのように高杉の指を包んでいた内壁が蠢き始めた。その仕草に高杉は口元を舌先で湿らせつつ、自分の下で必死に顔を背けながら自身の身体に起こる変調に耐えている土方を見下ろし、「才能あんじゃねぇのか?土方」と声をかけ、再び自身の物を取り出し土方の奥へと押し進める。
先ほどの時は違い、ゆっくりと、しかし確実に奥へと進めながら、高杉はその反応を一瞬たりとも逃さないよう、土方の顔を凝視し続ける。
高杉が土方の身体の奥を突くたび、必死に乱れまいとしながらも、時折感じてしまうのを我慢できないのか、快感に耐えるかのように、土方は長い睫を震わせながらゆっくりと瞼を閉じ、口内に入れられたスカーフを噛み締めていた。
土方のそんな仕草に、高杉は言いようのない艶かしさを感じ、口を塞ぐ白いスカーフを取り去ってやりたい衝動に駆られる。そしてその衝動のまま土方の顎を掴んで噛み締めていた口元を緩めさせると、唾液に塗れたスカーフを引き抜き、適当に投げ捨てる。
口の中から異物を取り払われた土方は短い息を口から何度も吐いていたが、それすらも高杉を誘うには充分過ぎるほど扇情的で、高杉はその唇を己のもので塞ぎ深く口付けた。
その後、止めていた動きを再開すれば、土方の口からは耐え切れなかった嬌声が漏れ聞こえてくるようになり、それに煽られるかのように高杉は土方の双丘を掴み、最奥へと自身の物を埋め込み欲を爆ぜさせた。

一度ならず、二度、三度と高杉が土方の身体を組み敷いているところへ、部下の1人が部屋に駆け込んできた。
「晋助さま!」
「うるせぇ、取り込み中だ」
入ってきた女に高杉はそれだけ告げ、土方を突き上げ続け、それに呼応するかのように土方の口からは小さな喘ぎ声が漏れ出ていた。
そんな色濃い情事のさなかを目の当たりにした部下は一瞬だけ怯んだが、すぐに立ち直り自身を奮い立たせるようにして高杉へと尚も言い募る。
「さっき、ここから数キロ先の番をしてる者から連絡が入ったっス!真選組の奴ら、ここに向かって来てるらしいっスよ!」
その言葉に高杉は土方を突きあげるのを一旦止め、怪訝な表情を浮かべる。
高杉が土方を連れ込んだこの場所は江戸からは随分離れている上、わかり難いほど入り組んだ街の奥深くにある廃屋であり、そこをそう易々となんの当てもなしに自分たちの仲間以外が見つけ出せるはずがない。そう思いながら高杉はふと自分の腕の中にいる土方をみやった。
数回におよぶ高杉との行為に疲れきってぐったりとしている土方の顔をしばらくジッと見つめた後、かすかに眉根を寄せて土方の顎を掴んで自分へと顔を向けさせ口をこじ開けてみれば、土方の奥歯に金具の破片が見て取れた。
「…発信機か」
そう呟く高杉に、土方はその口内の金具を高杉の顔へ向けて自身の唾とともに吐き捨てた後、「ざまぁみろ」と言葉を漏らし、ここに来て初めて笑みを浮かべた。
その仕草にいまだ部屋にいた女が腰から銃を引き抜き、土方の頭部に銃口の標準を合わせるが、高杉は顔に吐きかけられた唾を着物の袂で拭ったあと、軽く手を上げ女を留まらせる。
そして土方の中に納めていた自身を引き抜き、身なりを整え始めた。そんな高杉に女が不満げに「殺さないんスか?こいつ」と声をかけると、高杉は隻眼を細め口元には笑みを湛えながら土方の様子を見つめる。
返事のない高杉に女がもう一度せかすように「晋助さま!こいつ、さっさと殺した方がいいっスよ!」と叫ぶ。
対して高杉は口を開きゆっくりとした口調で話し始めた。
「犬どもに見せ付けてやんだよ。俺が捕まえた蝶々をなァ」
そう言われて女は土方の今の状況を見つめなおしてみた。
女の自分が見ても今の土方の表情はどこか官能的で、身体中から色情的な空気を漂わせ、下半身にはどちらの物かわからないほど吐き出された白濁がこびり付いており、思わず目を塞いでしまいたくなりそうなほど情事の後が色濃く残されていた。その姿からして土方が何をされたかは一目瞭然であり、敵の頭目に近い位置に属する土方のそんな姿を見れば幕府の犬と名高い自分たちの敵も慄くのではないだろうか。
女の脳裏にそんな考えが浮かんだ。
「なるほど!さすが晋助さまっス!!」
晴れやかな顔でそう言う女へとチラリと視線を向けた後、高杉が土方の反応を窺えば土方は悔しそうにギリッと唇を噛み、高杉を強い眼差しで睨みつけている。
思ったとおりの表情を返して来た土方に高杉は笑みを深くしながら土方に近づき、身を屈めると土方の首を圧迫し、土方が高杉によって差し入れられた舌を噛めないようにしながら、歯の形を確かめるがごとく念入りに深く口付け始めた。
そしてゆっくりと唇を離し銀糸が互いの唇を繋いでいるままに、高杉は目の前で苦しげに忙しない呼吸を繰り返す土方を見やりながら静かに言葉を漏らす。「左奥歯に埋め込んでやがったのか。今度は気をつけねぇとな」
息を荒げながら睨みつけてくる土方に、高杉はしゃがみこみながら視線を合わせつつ続ける。
「忘れんじゃねぇぞ?土方。てめぇは俺に捕まったんだ。どこを飛ぼうが、てめぇの所有者は俺だ」
高杉はそう言うと再び土方へと軽く口付けて立ち上がり、そのまま踵を返して部屋を出て行こうとする。
「あ、晋助さま!」
その後ろを慌てたように女が付いてきていたが、それに気を留めることなくそのまま足を進めた。
そんな高杉に女が背後から声をかけてくる。
「でも晋助さま。ホントに土方をあのままにしといて良かったっスか?」
「あ?見せしめだって言ったろ?」
「まぁそうなんスけど…、でも、気に入ったんスよね?土方のこと。」女の言葉に高杉は足を止めて少し驚いたように女を見やれば、女は不思議そうに首をかしげて「違うんスか?」と尋ねてきた。
女から投げかけられた問いを高杉は自分自身へと問いかけ、小さく笑い、再び歩き出した。
「あ、ちょ、晋助さまぁ!」
「…虫取りなんぞいつでもできらぁ。今度は丈夫で見つかりにくい虫籠を探せば済むことだ」
「え?なんて言ったんスか!?また子、聞こえなかったっス!もう一回!!」
背後でバタバタと走り寄ってくる女を構う事なく足を進めつつ、高杉は自身の指にこびり付き固まり始めていた土方の血をペロリと舌で舐め取った。


  END
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