傍らに


飯をたかるために階下のスナックへと足を運んだ銀時は扉を開けた瞬間、嫌な予感がして引き戸を閉めた。
「待ちなっ、銀時」
しかしすぐに引き戸が再び引かれスナックのオーナーであり、銀時が借りている家の大家であるお登勢が銀時の首根っこを掴んだ
「なんだよ、ババア」
「この子の面倒みとくれよ」
「お断りします」
「あぁ?あんたどんだけ家賃ためこんでると思ってんだい!?嫌なら未払い家賃、今すぐ耳揃えて払いな!!」
「できるわけねぇだろババァ!!」
「よし決まりだ。あんたちょっとこっちおいで」
お登勢に言われて高い椅子から飛び降りてパタパタと子供が駆け寄ってきた。
漆黒の長い髪を頭の上で結んだ小奇麗な顔をした子供がお登勢の隣に立つ。
身長は銀時の胸元らへんしかなく、黒い着物を着た子供は不思議そうに銀時を見上げた。
その顔をじっと見た後、銀時は呆れたようにお登勢に向かって言う。
「おいババァ。いくら子供って言っても女を家に住まわせる気はねぇぞ?」
銀時がそういい終わると同時に銀時の足が子供の草鞋によって踏みつけられた。
「いってーっ!!何しやがる!」
「俺は女じゃない!」
「お前、その面で女じゃねぇのかよ」
「うっせー!もじゃもじゃ天パ!」
「あー!?お前このお洒落パーマがわかんねぇのかよ!!これだから子供は嫌なんだよ!」
「お洒落パーマ!?地毛じゃねぇんならそれは失敗パーマだ!ばーか!!」
「失敗だぁ!?」
「煩い!!」
お登勢によって二人とも頭に拳骨を食らわされた。
銀時は慣れていたが、子供の方はその衝撃が結構効いたらしく、目に涙を浮かべていた。
「ぷっ、だせー」
それを銀時が見つけて笑いながらそう呟くとキツク睨み付けてきた。
「仲良くしなよ。あんた帰り道わかんないんだろ?」
お登勢の言葉に子供はハッとなって小さく頷いた。
「なんだ。迷子なら警察連れてけよ」
「いや、どうもただの迷子じゃないみたいでねぇ」
「は?」
お登勢の話によれば、子供はどうやら過去からやってきたらしい。
銀時自身、そんな眉唾話まったく信じていなかったが、目の前の子供がどことなく不安げに窓の外を見上げる姿に茶化すことはしなかった。
自分が子供だった頃はこんなふうに天人が空を飛びまわり、犬やら猫やらの顔をした生き物が我が物顔で道をうろつくなんて想像もしたこともなかった。
過去から来たかはともかくとしても、天人が行き交うこの世界が記憶にないのだとしたら不安で仕方がないだろう。
いまだに窓の外を見つめている子供の頭を軽く叩きつつ名前を尋ねた。
叩かれた頭を抑えつつ、子供は銀時を見上げて小さく「…十四郎」と答えた。
「よし、十四郎。仕方がねぇから俺の家に置いてやる。銀さんに感謝しろよな」
「銀さん?」
「俺だよ。坂田銀時」
「ふーん」
そう返しつつ、十四郎はじっとお登勢を見つめた。
その視線に気付いたお登勢は笑いながら「あたしゃお登勢だよ」と答える。
すると十四郎はぺこりと頭を下げた。
「ありがとう、お登勢さん」
「おいーーっ!俺に感謝しろって言ったろ!?」
「あんたよりに先にお登勢さんが助けてくれたんだ。あんたはそのついでだろ?」
「ついでだぁ!?てめ、追い出すぞ!?」
「へー。じゃぁ家賃払ってくれるんだねぇ?銀時」
「さっ!十四郎くん!我が家に帰ろうか!!」
銀時は十四郎の手を取って店を後にした。

コンビニから帰って来た銀時は濡れた髪を振りながら玄関を上がった。
「くっそ、急に降ってきやがってぇ。まぁジャンプは死守したけどな!」
そう独り言を言いつつ家の中に入ると電気が点いていないことに銀時は首を傾げた。
以前は1人で暮らしていたから不思議な事ではなかったが、今は十四郎が一緒に暮らしている。
銀時が出かけていても十四郎が家にいれば電気が点いているはずだった。
「十四郎?いねぇの?」
銀時がそう声をかけると、押入れあたりで物音がした。
その音を頼りに押入れの襖を開けると案の定十四郎がいた。
「なにしてんの?お前。1人でかくれんぼか?」
「べ、別に!」
そう言って出て来ようとした十四郎だったが、窓の外から聞こえてきた激しい雷音にバッと銀時に抱きついた。
「はっはーん。お前、雷怖ぇのか」
「こ、怖くねぇぞ!?た、ただ、おぉおお前が怖いだろうと思ってくっ付いてやっただけだ!」
そう強がりながら必死にしがみ付いてくる十四郎に銀時は思わず小さく笑った。
抱きつきながらも銀時が笑っていることに気付いた十四郎はムッとして銀時を見上げた。
「なにがおかしいんだよ!」
「いやぁ、別にぃ。そうだな。銀さん雷怖いから十四郎に抱きしめてもらおうかな」
「だろ!?」
十四郎はホッとした顔でそう言うとぎゅーっと銀時に抱きついてきた。
銀時はそんな十四郎を微笑ましく思いながら頭を撫ぜる。
(可愛いな、こいつ)
雷が去ると、銀時は立ち直った十四郎とともに階下のお登勢の店で食事をしに行った。
「ババァ飯くれ」
「たまには金払いな」
「ツケで頼むわ」
「ったく」
お登勢は呆れつつ十四郎と銀時の前に白いご飯と焼き魚、味噌汁を出した。
目の前に並べられた料理に十四郎は懐から赤いキャップのついた黄色いチューブを取り出した。
そしてキャップを開けると盛大に全ての料理にかけた。
お登勢はその光景に驚いて声を上げた
「ちょ、あんた何してんだい!?」
「あぁ、ほっとけよババア。十四郎、何か最近マヨにハマってんだ。」
「身体に悪いんじゃないのかい?」
「だってよ、十四郎」
「え、でもこの方が美味い…」
チューブを握ったまま瞳を潤ませた十四郎にお登勢は思わずうっと言葉を詰まらせた。
「う、ま、まぁたまにならいいんじゃないのかい」
お登勢の言葉に十四郎は目を輝かせて頷いた。
そしてご飯を美味しそうに口に頬張った。
ご飯を食べるというよりマヨネーズをジュルジュル啜っているような十四郎に呆れつつ、銀時は自分も食事を始めた。
「あぐあぐ、そういや、銀時は働かないのか?」
もぐもぐと口を動かしつつそう尋ねた十四郎に銀時は「たまに働いてるだろ」と軽く返した。
「働いてる日数の方が少ないじゃないか」
お登勢が呆れながらそう言うと、十四郎が「じゃ俺が働く!」と手を上げた
「子供は働けねぇんだよ」
「じゃぁじゃぁこの店の手伝いでもいいから!」
「この店はもっとダメだろ。スナックだぜ?」
「邪魔にならないよう頑張るから!お登勢さん!」
「って聞けよ、十四郎」
十四郎の必死の頼み込みにお登勢は店には出ず買出しや洗い物を手伝うという条件を出した。

店には出ていない十四郎だったが、洗い場で働く姿が可愛いと評判でそれを見るのを目当てにしてやってくる客がちらほら出てくるようになった。
「これ十四郎ってば指名料的な金も貰うべきじゃね?」
銀時の言葉にお登勢は「あんた十四郎のヒモみたいだねぇ」と呆れた。
「当然の請求だろ?」
「ちゃんとこの前から少し色つけて払ってるよ」
「さすがババアだな」
そんな会話をしていると、十四郎が買い物袋を提げつつ店に入ってきた。
店に足を踏み入れながらも後ろを気にしている十四郎にお登勢はどうしたか尋ねる。
「いや、なんか最近、買い物行くと視線を感じるんだ」
「大丈夫なのかい?」
「うん、気のせいかもしれないけど…」
「気のせい気のせい!十四郎の自意識過剰だろ」
銀時の言葉にムッとして飛び散らかった銀時の髪を力強く引っ張った。
「いってーっ!」
銀時が十四郎を捕まえようと手を伸ばした瞬間、ひょいと避けて荷物をもってカウンターの中へと入っていた。
「てめぇ!俺の髪が抜けたらどうしてくれんだよ!」
「次はストレートの髪が生えてくるかもしれねぇじゃん」
「マジで!?これって脱毛した方がいい感じ!?」
「そんなことより、ホントに大丈夫なのかい?」
「うん。たぶん銀時の言うとおり、俺の気のせいだよ。」
十四郎はニコリと笑ってそう言うと買ってきたものを冷蔵庫へ詰めはじめた。
その2、3日後、いつものように開店前の店でお登勢相手に話していた銀時だったが、いつも以上に十四郎の帰りが遅いのが気にかかった。
「あいつ遅くね?」
「そういえばそうだねぇ。いつもならとっくに帰ってきてるはずなんだけど…」
「俺そのへん見てくるわ」
そう言って店を出て行こうとする銀時に、お登勢は「なんだかんだ言って心配なんじゃないか」と笑った。
店を出ると銀時は十四郎がいつも通る道を逆に回った。
十四郎が最後による八百屋の親父に十四郎が来たか尋ねるととっくに帰ったと返された。
銀時は嫌な予感がして八百屋を駆け出すと十四郎が通る帰り道を走りながら声を張り上げた。
「十四郎!」
銀時がそう叫んだ瞬間、路地裏からゴミ箱が倒れる音がした。
その音を追って路地裏を覗くと買い物袋が散乱し、十四郎が小太りの男に抑え付けられていた。
「十四郎を、離せ!!」
木刀で殴り飛ばすと男は腰を抜かしつつ、路地裏を逃げて行った。
銀時はそれを睨みつけた後、その場にずるずると座り込む十四郎に慌てて駆け寄る。
「大丈夫か!?十四郎!」
「う、うん。大丈夫…。」
そう言いながら自分の身体を抱えて震える十四郎に、銀時は申し訳なさそうにうな垂れた。
「ごめん、俺がちゃんとお前の話聞かなかったから…」
「ううん、助けてくれて、ありがとな…」
震えながら自分に笑顔を向ける十四郎に、銀時は自分の不甲斐なさを責めた。
「ごめん、ホントごめん…。」
「俺は大丈夫だって言ってるだろ。…っと、あれ、おかしいな…」
ポロポロと瞳から落ちる雫を十四郎は慌てて拭った。
銀時を安心させようと強がる十四郎に、銀時はたまらず十四郎を抱き寄せた。
「これからは俺がお前を守ってやるから!絶対、絶対守ってやるからな!」
十四郎は銀時の言葉に頷きながら銀時の着流しの袖を涙で濡らした。
散らばった荷物を拾い、大丈夫だと騒ぐ十四郎を抱えたまま銀時は店に戻った。
その様子にお登勢は目を丸くしたが、銀時の「今日限りで十四郎は働かせない」という言葉に何かを察したようで、十四郎の頭を撫ぜた。

十四郎が働かなくなった代わりに、銀時が万事屋のように入るか入らないか解らない不定期な職ではなく、お登勢の紹介で大工を始めることになった。
仕事を始めて数日後、いつものように十四郎が銀時を玄関先へ見送りに来る際、小さな風呂敷包みを手渡した。
「何だコレ」
「握り飯だ。昼に食え」
「何か早起きしてやってるなぁと思ったら、お前そんなことしてたのか」
「いいからさっさと行け!!」
ニヤニヤと顔を緩ませる銀時に十四郎は顔を真っ赤にして銀時を外へと追い出した。
屋根の修理をし続け、昼休憩に入ると、銀時は手渡された風呂敷包みを開いた。
白米のままの握り飯2つと海苔が巻かれた握り飯が1つがラップに包まれており、それと共に小さなアルミ製の弁当箱が入っていた。
それを見て顔を綻ばせている銀時に、棟梁がからかうように声をかける。
「お、なんだ。銀さん、今日は愛妻弁当かい?」
「愛妻って…。ちげぇよじじい」
そう返しつつ銀時は握り飯を頬張った。
味はまあまあだなと頷きつつ弁当箱のおかずを摘んだ。
握り飯の中身は焼鮭できちんとグリルで焼いてあった。
朝からマメな奴だなぁと一つ目の握り飯を全て平らげると二つ目へを口に含んだ。
その途端、口に広がった酸味に思わず米粒を噴き出した。
「うわ、銀さん汚ねぇな。何してんだよ」
「いやいや、何だコレ!?」
棟梁の言葉すら聞こえないぐらい衝撃を受けた銀時は握り飯をしみじみと見つめた。
海苔に巻かれているのはマヨ塗れになった米粒だった。
「どうりでこの握り飯だけ海苔が巻いてあるはずだよ…。べちゃべちゃで固まらないもんな。っていうか十四郎の奴、俺はマヨネーズ好きじゃねぇってのに…。」
銀時はブツブツ言いながらそのおにぎりを口に含むと無理やり飲み込んだ。
口直しにおかずを摘んだあと、恐る恐る握り飯の最後の一つを手に取った。
「今度はなんだ?こえぇー…」
ドキドキしつつ頬張ると、先ほどのような衝撃はなく、口に甘みが広がった。
「美味い。」
そう呟き握り飯の中身を確認すると小豆が中心に詰められていた。
「ちゃんと俺の好きなものを入れてたのか」
銀時はそう言いながら思わず口元を緩めた。
全てを食べ終えると一つ大きく伸びをして「さぁ昼からも頑張りますかっ!」と声を上げた。
銀時が家に帰ると十四郎が出迎えた。
何か期待したような表情の十四郎に銀時は弁当箱を渡しつつ言った。
「お前なぁ、マヨ握りなんてありえねぇぞ」
その言葉にショボンと肩を落とした十四郎の頭を撫ぜながら、「小豆は美味かった」と一言告げて家の奥へと入った。
十四郎は銀時に撫ぜられた頭に手をやって顔を綻ばせた。
その様子を少し離れた場所から盗み見ていた銀時は思わず口元を抑えた。
(何あいつ、超可愛いんですけど!?)

翌日から銀時の握り飯の中身は鮭と小豆とツナマヨに安定した。
毎日楽しそうに弁当を作り続ける十四郎に何か礼でもしようと銀時は考え込んだ。
休憩中に珍しく考え事をしている銀時に他の大工仲間たちが声をかける。
「どうした?銀さん」
「いや、弁当のお礼になんかしてやろうと思うんだけど何がいいかなぁと思ってよ」
「あぁ奥さんに?」
「だから奥さんじゃ」
ないと言いかけ、銀時はまぁいいか奥さんでと考え直し頷いた。
「花束とかはどうだい?」
「あいつ鼻弱いからだめだ。クシャミでちまう」
「じゃ香水もダメだな」
「あぁ。香水なんか使わなくてもあいついい匂いしてるしな」
「じゃ髪飾りとかは?」
「あぁーそれはいいかもな。あいつ髪長いし…。いやダメだ。またストーカーに狙われたらどうすんだよ!」
「いや、知らないよ。」
「じゃぁ下着とか?」
「俺の嫁さんにセクハラかますんじゃねぇ!あいつは清純派なんだよ!」
「っていうか銀さんベタ惚れじゃねぇか」
「へ?」
「あぁ。羨ましいね。そんな奥さんで」
「それぐらい大事にされてるなら何してあげても喜ぶんじゃないか?」
「そうそう。新婚ってのは家事代わって貰っただけでも嬉しいもんだよ」
いや新婚じゃねぇけど。
銀時は心の中でそう返しつつも、家事を代わってやるか、意外といい案かもなと頷いた。
そう決めると銀時は家に帰る前に階下の店へと顔を出した。
「銀時じゃないか。珍しいね。いつもそのまま家に直行で帰るのに」
「あぁ、ババアに頼みあんだけど」
「頼み?なんだい?」
「明日1日、十四郎を連れ出してくれねぇ?」
「いいけど何か悪さでもするつもりかい?」
「なわけねぇだろ。明日は仕事ねぇから十四郎に夕飯でも作ってやろうと思っただけだ。じゃ、頼んだぞ」
そう言うと銀時は店を出て家へと向かった。
家に帰るといつものように十四郎が笑顔で出迎えた。
「お帰り、銀時」
「あぁ。ただいま」
「今日の夕飯はクリームシチューだ。風呂沸いてるぞ」
「ありがとな。」
銀時が笑顔で礼を言うと十四郎も嬉しそうに顔を綻ばせた。

翌朝、大家であるお登勢が十四郎に買い物に付き合ってくれないかと誘ってきた。
「え、でも今日は銀時も仕事休みだし…」
「行って来いよ。俺は家でのんびりしてるからよ」
断ろうとしていた十四郎だったが、銀時の言葉に十四郎は少し顔を曇らせつつ頷いた。
それに銀時が気付きどうしたのか尋ねようとした次の瞬間には、十四郎はいつもの顔になって銀時にあんまダラダラすんなよ!と釘を刺した。
十四郎と並んで買い物に出かけたお登勢は先ほど顔を曇らせた理由を尋ねた。
「銀時は俺がいない方がいいのかな?」
「なんだって?」
「だって俺がいない方がゆっくり出来るみたいだし…。」
「ははっ!あんた銀時を家でのんびりさせたいがために買い物に行く事にしたのかい?」
「だ、だって、あそこはあいつの家だし、俺は居候だし…っ」
「安心しな。あそこはちゃんとあんたの家だよ。」
お登勢は微笑みながら十四郎の髪を撫ぜた。
十四郎の後ろで揺れる長い髪にお登勢はふとした疑問を口にした。
「あんたなんで髪伸ばしてるんだい?」
「兄ちゃんが伸ばした方が似合うからって」
「…家族は多いのかい?」
「うん。母さんと父さんはもう死んじゃったけど、兄ちゃんと姉ちゃんが2人ずついる」
「そうかい」
笑顔で答える十四郎にお登勢は微笑み返しつつも一抹の不安が過ぎった。
十四郎は町をオロオロと彷徨っているところをお登勢が拾ったのが始まりだ。
過去から来たのかもしれないと十四郎の話を聞いて思ったのは事実だが、出来ればこのまま十四郎が元の世界に戻ることなく銀時の傍で家族になって欲しいと願った。
お登勢が始めて見た銀時は腹を空かせ、何もかも失ったような顔をしていた。
どこか投げやりで何事にも、生にすら執着しない銀時がお登勢は心配だった。
それが十四郎と過ごすようになってそれが随分変わった。
十四郎のために働き、生きている。
そう感じられた。
「十四郎。銀時が好きかい?」
お登勢の質問に十四郎は一瞬首を傾げたが、すぐに笑顔になって、「もちろん!」と大きく頷いた。
「そうかい。ずっと好きでいてやっておくれ」
そう言ってどこか顔を曇らせた様子で自分の頭を撫ぜるお登勢に、十四郎は不思議そうに首を傾げた。
「お登勢さん?」
「なんでもないよ。今日付き合ってくれたお礼に何か買ってあげるよ」
「え?いいよ。そんなの」
「いいから!遠慮せずに言いな」
「うーん、じゃぁ鍋とか?」
「鍋ぇ?」
十四郎の意外な答えにお登勢が顔を歪めると十四郎は顔を輝かせて言った。
「家には小さい鍋しかないから小豆が毎日の握り飯分しか作れないんだ。でも大きな鍋で炊けば銀時の好きな小豆で丼とかぜんざいとか作れるだろ!?」
「あ、あぁそうだね…。」
身を乗り出してそう訴えてくる十四郎にお登勢は思わず頷いた。
お登勢の同意が得られたことが嬉しくて十四郎は浮き足立って調理器具売り場へと足を運ぶ。
それを苦笑しつつ、お登勢も十四郎の後を追った。

十四郎がお登勢と1日を過ごし、家に戻ると家の中からいい匂いがしてきた。
「ただいま」
十四郎が恐る恐る声をかけると銀時が顔を出した。
「お帰り」
「誰か来てるの?」
「あ?来てねぇよ」
「でも夕飯の支度」
「今日は俺がした」
「え!?」
「いつもお前に作ってもらってばっかだったからな。ほら、さっさと手洗って来い」
「う、うん。」
十四郎はパタパタと廊下を歩き洗面所で手を洗って部屋に戻ってくると目を見張った。
テーブルの上には十四郎が以前好きだと言った食べ物ばかりが並べられていた。
魚介のマヨスープにポテトサラダ、ホウレンソウとゴママヨネーズの和え物、エビマヨに鳥の唐揚げマヨポン酢和え。
「すごい…」
「マヨネーズのフルコースだぜ」
「すごい…」
「ってお前さっきもそれ言った…、十四郎」
銀時がそう言いながら後ろに立っている十四郎を振り返ると、十四郎はしゃっくりを上げて泣いていた。
「ちょ、十四郎?どうしたんだよ」
「すごい、嬉しい。ひっく、銀時、俺、邪魔じゃない?」
「は?」
「俺、大したこともできないのに、銀時の家に勝手に住まわせてもらって…。銀時、迷惑じゃねぇ?」
「ばっか!迷惑なわけねぇだろ!?むしろずっといてくれって感じだよ、バカヤロー」
銀時はそう言って十四郎を抱き寄せた。
「十四郎。どこにも行くなよ?ずっと、ずーっと、俺の傍にいろよな」
「ヒック、うん…。俺、ずっと、銀時の傍にいる…」
泣きじゃくりながらも十四郎は必死にそう返して銀時の着流しを握り締めた。
涙で濡れた十四郎の顔を見つめ、銀時はそっと十四郎の唇に自分の唇を重ねた。
それは一瞬のことだったが、二人とも顔を真っ赤にしてなんとなくいたたまれなくなり、ぱっと離れた。
「め、飯にしよぜ!十四郎」
「う、うん。そうだな!」
頷き合って食卓につき、照れながら食事を口に運んだ。
食事が済むと、今日のお礼にと十四郎が洗い物をすると言い出した。
いつもお前がしてるんだから今日は俺がすると銀時が言っても頑なに譲らず、銀時はしぶしぶ先に風呂に入ることにした。
食べ終わった皿を洗いながら十四郎は今日のことを思い出して顔を綻ばせた。
(嬉しかったなぁ。銀時にずっと傍にいてくれって言われて…それに…)
十四郎はそっと自分の唇をなぞった。
一瞬だけ重なった銀時との唇。
一生忘れられそうになかった。
十四郎にとって銀時は今まで自分の回りにいた誰とも違う感じがした。
兄弟仲がいい十四郎の家では兄たちは末っ子である十四郎をベタ可愛がりしてくれる。
そんな兄たちが十四郎は大好きだったが、銀時への気持ちは少し違った。
(好きにもいろんな種類があるのかな?)
十四郎はスポンジの泡を立てながら首を傾げた。
(そういえば兄ちゃんたちとも随分会ってないなぁ。元気かな?)
十四郎が家族である兄たちの顔を思い浮かべた瞬間、皿がシンクに落ちる音が響いた。

銀時が風呂から上がり、濡れた髪をタオルで拭いつつ台所に顔を出すとそこに十四郎の姿はなかった。
「あれ?十四郎?」
銀時はトイレに足を運んだが人の気配はなかった。
それどころか家全体から十四郎の気配が消えていた。
「十四郎?な、なんだよ。出かけるなら出かけるって言えよ。」
嫌な焦燥感が銀時を襲った。
銀時は裸足のまま家を飛び出して階段を駆け下りた。
「十四郎!どこだよ!十四郎!!」
銀時の叫び声にお登勢が慌てて店から飛び出してきた。
「銀時?どうしたんだい」
「ババア!十四郎がいなくなった!探してくれ!」
「十四郎が?出かけたのかい?」
「わかんねぇよ!家にいねぇんだ!早く十四郎を探してくれ!!」
「ちょっと落ち着きなよ、銀時。出かけたのなら帰ってくるかもしれないだろ?」
「なんかすっげー嫌な予感がすんだよ!!」
銀時はお登勢の腕を振り払うと町へと駆けて行った。
「十四郎!?どこだ!どこ行ったんだよ!!十四郎!!」
町中を駆け回り、ボロボロになって銀時が家に帰っても十四郎の姿はなかった。
台所には洗い途中の皿が残されており、その中の一枚が砕け散っていた。
銀時はずるずるとその場に座り込み頭を抱えた。
「十四郎ぉ…、どこ、行ったんだよ…。ずっと、ずーっと傍にいるって、言ったじゃねぇか…。」
思わずあふれ出る涙を銀時は止めることができなかった。
翌朝、心配したお登勢が銀時の様子を見に家に上がると、銀時は居間で酒を飲んでいた。
「あんた、朝っぱらから飲んでんのかい?」
「うっせーな。昨日の晩から、ずっと飲んでんだから朝からじゃねぇよ」
「銀時…」
「十四郎の奴、帰ってこねぇんだ。帰ってきたら説教してやる。門限は7時だってな」
そう言いながら銀時はグラスに並々とブランデーを注いだ。
「あんた、今日は仕事じゃないのかい?」
「十四郎が帰ってくるまで俺は出かけねぇ」
一気にグラスを空にした銀時にお登勢は眉根を寄せつつも、今はそっとしておこうと家を後にした。
しかし銀時の様子は1週間経っても浮上せず、ずっと飲んだくれていた。
「いい加減におしよ!銀時!」
「…うっせー、ババア。怒鳴るんじゃねぇ。頭に響く」
「ちょっと来な!」
お登勢は銀時の首根っこを掴むと無理やり家から出し、店へと連れてきた。
「んだよ、酒でもくれんのかよ」
「食べな!」
そう言って銀時の前に置かれたのは丼鉢に米と小豆が乗せられたものだった。
「なんだこれ、なんかの嫌がらせですかコノヤロー。」
「それは十四郎があんたのためにって考えたメニューだ」
「…え?」
「この前、買い物に行った時、十四郎が鍋を欲しがってねぇ。何に使うのかって聞いたら、あんたが好きな小豆をたらふく炊いてやりたいって言うんだよ。握り飯だけじゃ足りないから、丼にしてやるんだって…。ホント、嫌がらせみたいなメニューだよねぇ…。」
お登勢はそう言いながら目を潤ませた。
しかしそれを悟られないように銀時に背中を向けつつ「あんたのためだけのメニューなんだからさっさと平らげちまいな!」と声をかけてカウンターを出て行った。
銀時は涙で滲む丼鉢を手に取ると橋を掴んで米と小豆を口の中にかき込んだ。
「うめぇ…。うめぇよ…、十四郎…。」

それから数年後。
「銀ちゃん、行ってきまーす!!」
「神楽ぁー!!玄関の扉は開けろって言ってんだろ!?ぶち破るものじゃねぇんだよ!!」
「あ、ババァ、おはようアル!」
「あぁ、おはよう」
店の前を掃除していたお登勢が白い大きな犬に乗った少女を見送ると、それと入れ違いになるように眼鏡の少年がやってきた。
「お登勢さん、おはようございます」
「おはよう。今日は早いね。」
「はい。姉上が銀さんに朝食を届けてやるようにって」
「そうかい」
頷きつつ少年を見送り再び掃除を続けた。
十四郎がいなくなった後、銀時は真面目に働かなくなった。
しかしそれでも丼を食べた後は酒を浴びるように飲む事はなくなり、今では新しい仲間と共に万事屋を再開している。
それはそれでいいことだ。
お登勢はそう思いながら騒がしくなった万事屋を見上げて笑った。
掃除を終えて店に戻ると、銀時と眼鏡の少年が店にやってきた。
「ババア、口直しにパフェくれパフェ」
「金払いな」
「ツケで頼むわ」
「ったく。あいよ」
グラスにアイスクリームと生クリームを適当にのせた物を銀時に差し出した。
銀時はそれを啜るように一気飲みしてぷはぁっと息を吐いた。
「おっさんくさいですよ銀さん。」
「うっせぇな。朝からダークマターを食わされた俺の気持ちがお前に解ってたまるか」
「僕なんて毎朝あれが出てくるんですよ!?」
「そんなこと知るか。つーかコレいらねぇから引き取れ」
銀時は先ほど少年が持ってきた包みをぐいっと押し返した。
「いやいや持って帰ったら僕が殺されますって!」
「俺が死んでもいいって言うのか!?」
「自分が無事ならいいですよ!!」
「はっはっはっ!しょうがない奴らだな。俺が食おうじゃないか。」
そこに突然現れた男に少年は思わずぎゃーと叫び声を上げながら殴った。
「痛いじゃないか、新八くん」
「近藤さん!あんたここで何してんですか!」
真選組の隊服を着た男、近藤に新八は食って掛かる。
「いや、俺は別に、お妙さんの手料理が行く先を辿ろうなんて、思ってないからね。うん、全然思ってないよ」
「家からつけて来てたのか!!」
「ゴリラー。お前いい加減にしろよなぁ。」
「万事屋!お前、お妙さんから朝飯貰ったからって勝った気になるなよな!?」
「いや、これもう俺の負けでいいからお前とは関わりたくねぇ。」
「僕も同感ですよ。…あ、」
新八は店に入ってきた男に目を向けた。
目の前にいる近藤と同じ制服を着ているはずなのに、どこか線が細く見えて、黒い隊服が白い肌を浮き上がらせていた。
「土方さん」
新八が名を呼ぶと咥え煙草を指で挟みながら「邪魔するぞ」と返した。
「おう、トシー!お前もお妙さんの朝飯貰いに来たのか?」
「そんなもん死んでもいらねぇよ。つーか近藤さん朝議ほっぽりだして何やってんだよ」
「あれ?もうそんな時間か?」
「ったく頼むから仕事してくれよ」
「悪い悪い。」
「何ですかー?チンピラ警官が殴りこみですかぁ?」
銀時がそう声をかけると土方の眉間に深く皺が寄った。
「あぁ!?」
「おー、怖い怖い。善良な一般市民を脅すなんてさすがチンピラ警官だな」
「善良な一般市民はなぁ、警官に喧嘩なんざ売らねぇんだよ!」
「はぁ?誰がいつ喧嘩売ったんですかー?何時何分何秒ですかー?」
「子供かっ!?てめぇは!パーなのその髪だけにしとけや!」
「はぁ!?俺のどこがパーなんだよ!」
「髪も頭の中もパーだらけじゃねぇか!!」
「瞳孔ガン開きの不良警官がよく言うぜ!」
「仕事もろくにしねぇぷー太郎には言われたくねぇんだよ!!」
お互いに胸倉を掴んで罵りあう二人に近藤と新八オロオロと二人と見やった。
「煩い!店で騒ぐんじゃないよ!!」
お登勢が銀時と土方の頭をトレイで思い切り殴った。
「「ってー」」
二人して頭を抱える様子にお登勢はデジャブのようなものを感じた。
「ぷっ、ダッセー。叩かれてやんの」
「はぁ!?お前も同じように叩かれてるだろうが!!」
「ちょ、トシ、落ち着いてー」
近藤が再びヒートアップしそうな土方にそう声をかけると、土方ははっとして携帯電話を取り出した。
「やべ。朝議待たせたままだ。帰るぞ、近藤さん!」
「あ、お妙さんの朝飯…」
「それはもういいから!早く!」
「あ、トシー!」
慌しく出て行った二人に銀時はやれやれとため息をついた。
同じように彼らを見送っていたお登勢は財布から千円を取り出し新八に声をかけた。
「新八、悪いんだけど乾き物の補充を頼めるかい?」
「え?はい。解りました」
「その金で俺のイチゴ牛乳とジャンプとケーキ1ホール頼むわ」
「それ絶対無理に決まってんだろ!?」
新八は銀時にツッコミを入れた後、店を出て行った。
二人になるとお登勢はおもむろに口を開いた。
「銀時。…十四郎の」
「あいつの話はすんじゃねぇ。あいつはもうこの世にいねぇんだよ」
お登勢の口から十四郎の名が出た途端、銀時は即座に会話を打ち切った。
それでもお登勢は気にせず続けた。
「いや私もそう思ってたんだけどねぇ。なんかさっきあんたとあの人のやり取り見てたらふと思い出しちまったよ。」
「あ?」
「あの副長さんだよ。あの人なんとなく十四郎に似てると思わないかい?」
お登勢の言葉に銀時はフリーズした。
今言われた言葉を頭の中でもう一度聞きなおして「はぁ!?」と大声をあげた。
「うるさいねぇ。そんな大声出すようなことかい?」
「出さずにはいられねぇだろ!?あの瞳孔ガン開きの奴が俺の十四郎に似てるって!?おいおい、ババア、もう目まで耄碌しちまったのかよ!」
「そうかねぇ。あたしゃ十四郎があのまま成長したらあんな美人になると思うけどね。」
「美人ーーー?」
そう言いながら銀時はそう返しつつ土方の顔を思い浮かべてみた。
白い肌と整った目鼻立ち、開き気味の瞳孔を差し引いても綺麗な顔立ちをしていることに変わりはなかった。
「…まぁ女にモテそうな顔だよな。髪もストレートだし」
「だろ?ちょっとは仲良くしてみたらどうだい?」
「ぜっってー無理!!大体、あいつゴリラにトシって呼ばれてるじゃねぇか。敏郎とか俊彦とかそんな名前ってことだろ?あいつが俺の十四郎なんてぜっっってーあり得ねぇ!!」
銀時は大きく首を振って断言した。

それ以後も意識しないようにしつつも、お登勢の言葉が忘れられず巡回中の土方を目で追うようになった。
ピンと伸びた背筋と、隙のない隊服を着こなしつつもどことなく醸し出す色気。
煙草を吸う姿も様になっていた。
その土方が銀時も行きつけの定食屋に入っていくのを見た銀時は慌てて後を追った。
店の中で土方はカウンターに座り定食屋の親父と雑談をしていた。
その隣に銀時が座ると土方の眉間に深い皺が寄った。
「…てめぇ、何で隣に座るんだよ」
「俺がどこに座ろうと自由だろ?嫌ならお前がどっか行けよ」
銀時はこう言えば土方が退かないだろうと思いそう言うと、土方は不快そうしながらも動こうとはしなかった。
「銀さんもいつものかい?」
そう声をかけてきた親父に頷きつつ、親父が手に持ってるものに目が釘付けになった。
「なにそれ」
「これは土方さんのだよ。通称土方スペシャル」
そう言って親父はそれを土方の前に置いた。
丼にマヨネーズが掛けられただけの食べ物だった。
ズルズルとマヨだか米だか解らないものをすする土方に銀時はドキドキしながら声をかけた。
「マヨネーズ、好きなのか?」
「あぁ。マヨは万物に合う調味料だ」
「…もしかして土方って、昔は髪長かった?」
「あ?」
銀時の言葉に土方は丼を食べる手を止めて怪訝そうに銀時の方に顔を向けた。
「何でてめぇが知ってんだ?」
土方の答えに銀時の鼓動が期待で早くなった。
「お前、名前なんだっけ」
「はぁ!?土方だって言ってんだろ?」
「ちげぇよ!下の名前!!」
自分を見つめながらどこか必死な様子の銀時に土方は首を傾げつつ「十四郎だ」と告げた。
「十四郎!!」
銀時は感極まって隣に座る土方へと抱きついた。
「ぎゃー!!何しやがるてめぇ!離れろ!!」
銀時はパッと離れつつも土方の両肩を掴んだまま尚も尋ねた。
「子供のときに記憶が曖昧な事とかねぇか?」
「は?とにかく手ぇ離せよ」
「いいから答えろ!」
自分の肩から手を外させようとする土方に銀時は声を荒げて尋ねた。
その声の大きさに思わずビクリとしながら土方は眉間に皺を寄せつつ銀時をみやった。
「14,5の時に風邪引いて高熱出した時、その前後3週間ぐらいの記憶がねぇけど?」
その言葉に銀時は再び土方を抱きしめた。
「てめ、また!」
「結婚を前提にお付き合いしてください!」
土方を抱きしめつつそう叫んだ銀時に土方はこめかみを引くつかせ、銀時の鳩尾に拳を入れ、それに銀時が怯むと「お断りします!」と怒鳴りつつ顔を思い切り殴りつけた。
椅子ごと倒れた銀時を冷たい目で見下ろした後、カウンターの向こうで固まっている親父に「勘定」と声をかけた。
親父に金を払って店を出ようとする土方だったが、いつまで経っても起き上がってこない銀時をチラリとみた。
当の銀時は土方に殴られた痛みなど忘れ、再び十四郎が目の前にいる喜びに浸っていた。
「おい、大丈夫かよ。てめぇ丈夫だけが取り柄なんだからしっかりしろよな」
土方はそう声をかけつつ銀時の傍らへとしゃがみ、うつ伏せている銀時を覗き込んだ。
銀時を案ずる土方の表情に、不安げに瞳を揺らしていた十四郎が銀時の中でピッタリと重なる。
銀時はそっと土方へと手を伸ばしてその頬に触れた。
そして少し身体を起き上がらせると土方の唇に自分のを重ねた。
すぐに唇を離したが、目の前の土方が顔を真っ赤にさせているのを見て、銀時は再び唇を重ね、ゆっくりと深く口付けた。
「ん…ふっ」
土方の唇から漏れる吐息に煽られながら舌をもっと奥へと差し入れようとしたところで、カウンターの親父が遠慮がちに声をかけた。
「あのー、お二人さん。そういうのは自宅でやってくれねぇか?」
その声にハッとなった土方はガバリと立ち上がり、真っ赤な顔で口元を拭いつつ怒鳴った。
「て、てめぇ二度と俺に関わるなよ!くそ天パ!!」
そう言い捨てるとバタバタと店を出て行った。
銀時はそれを見送った後、顔を緩ませながら「やっぱあいつ今でも可愛いなぁ」と呟いた。
以前十四郎に言った言葉を、いつかもう一度土方に向かって言おうと決めた。

―――― 今度こそ、ずっと、ずーっと、俺の傍にいてくれ、十四郎…


    END
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