プロポーズ


大雨注意報が出る中、土方は一人江戸の町を巡回していた。
例によって今日のパートナーであった沖田はそうそうに逃げ出していた。
「くっそー。総悟のやろう。帰ったら覚えとけよ。」
雨でしけってしまった煙草のフィルターを噛みながらそう言って歩いていると、ちょうど交差点で信号に引っかかり、小さく舌打ちをした。
「さっさと終わらせてぇのに赤かよ。」
イライラしながら信号を待ち、青になったところで雨の中、皆が急ぎ足なのに習うように土方も足を速めて歩き出した。
スクランブル交差点の真ん中に差し掛かったとことで、誰かに腕を引っ張られた。
眉間に皺を数本増やしながら掴んだ人物を傘越しにみやると、見覚えのある銀髪が目に入った。
腐れ縁で恋人と言っても過言のない付き合いをしている万事屋の坂田銀時であった。
「な、万事屋!?なんでてめぇ傘差してねぇんだよ!」
そう言いながら慌てて傘を差し掛ける土方に銀時は腕を掴んだまま叫ぶように言った。
「結婚しようよ!多串くん!」
「はぁ!?」
「いや、俺たち絶対結婚するべきだって!」
「ちょ、落ち着けよ、万事屋。大体俺は多串じゃねぇって言ってんだろ。」
「じゃ、土方くん!結婚しよ!」
「いやいや、名前呼びなおされても変わんねぇし。」
「嫌なの!?」
「え、いや、嫌って言うか・・・。てかそれ以前にもっと言うことあんだろ!?」
「なに?」
「なにってこう、気持ち的なもんがだなぁ」
ゴニョゴニョと口ごもる土方を先ほどから掴んだままだった腕を引っ張って引き寄せると耳元に口を寄せた。
「愛しているよ、土方くん」
そう囁かれた土方は思わず持っていた傘を手放して銀時に囁かれた耳を手で押さえた。
真っ赤な顔で土方は「う、そだろ?」とかすれた声で尋ねた。
銀時は再び土方を抱き寄せて口を耳元に寄せると「嘘じゃねぇって」と囁きながら土方の整った顔のラインを唇でなぞるように触れた。
くすぐったそうに身じろぐ土方を強く抱きしめて雨に濡れ始めた土方の唇に噛み付くように口付けた。
「な?結婚してくれよ。お前も俺のこと好きだろ?」
口付けの合間に囁くようにそう尋ねられた土方は困ったように固まった。
「俺のこと嫌い?」
固まってしまった土方に銀時が心配そうにそう尋ねると土方は小さく首を振った。
「じゃ好き?」
そう尋ねられると頷くこともなく再び困ったように眉根を寄せた。
(好きとか面と向かって聞くんじゃねぇよ。馬鹿やろう。俺がそんながらじゃないの知ってんだろ。)
そう心の中で悪態付きながら土方は思わず舌打ちをした。
「いやいや、土方くん。この場で舌打ちは銀さん、かなり傷つくんですけどー?」
「うっせーよ!大体、俺は真選組のために生きるって決めてんだよ!」
「知ってるよ。でも今時共働きとか珍しくないじゃん?」
「・・・てめぇは働いてねぇだろ?」
「働いてますから!人をロクデナシみたいにいうんじゃありません!!これでも万事屋の経営者ですよ!?」
「・・・てか別に俺じゃなくたって・・・」
「確かに土方くんは負けん気も強いし、重度のマヨラーで瞳孔開きぎみな上に気が短くて喧嘩っ早いよなぁ。」
「喧嘩売ってんのか!?てめぇ!」
「違うってば。俺はそういうの全部ひっくるめて好きだよーってことを言いたかっただけなんですー。だから結婚しようよ。マジで俺土方くんのこと愛してっし!」
そう言いながら銀時は掴んでいた腕を持ち上げて薬指にシルバーのリングをはめた。
「ちょ、てめ勝手に」
「うん、ぴったりー」
土方は指にはめられたリングをしみじみ見ながら「お前が買ったのか?」と尋ねた。
銀時は胸を張って「あったり前じゃーん!」と答え「給料三ヶ月分だよ」と続けた。
「てめぇの給料三ヶ月じゃ値段もたかがしれてるなぁ。」
「値段は問題じゃないでしょ!気持ちが大事なんだから!」
文句を言いながらもどこか嬉しそうに指輪を見つめる土方に銀時は微笑みながら言った。
「で?お返事は?」
にやけた顔で尋ねてくる銀時に土方は再び舌打ちをして銀時の襟首を引っつかみ力強く自分に引き寄せて銀時の唇に勢いよく口付けた。
触れたらすぐに離れようとした土方の頭を掴んで固定すると銀時は舌を絡め取って深く口付けた。
時折、雨粒が口元を濡らすのを感じながら二人が夢中になって口付けていると、どこからか殺気を感じた。
二人はすぐさま飛びのくと、それと同時に爆発音がした。
「な、何だ!?」
慌てる土方が殺気がした方に顔を向けると、爆煙の中から顔なじみの姿が現れた。
「総悟!てめぇなにしやがる!」
「いやね。交差点のど真ん中で乳繰り合ってる迷惑者どもがいるから何とかしてくれって屯所に通報があったんでさぁ。そんな馬鹿ヤローな迷惑者はどこのどいつかと思えば、まさかあんたらだったとはねぇ。お二人さん。」
沖田の嫌味ったらしい口ぶりに土方はハッとなってあたりを見渡した。
すると二人のせいで行きかえなくなった車が、長蛇の列をなしており、クラクションがあたり中に響き渡っていた。
状況を察した土方は顔を真っ赤にして慌てて雨の中を走り去って行った。
「あ、逃げやがった、あのやろう」
「まぁまぁいいじゃないの。総一郎君」
銀時は土方が落としていった傘を拾い上げながらけだるげに言った。
「総悟でさぁ、旦那。」
訂正してくる沖田の言葉を聞き流しながら銀時は続けた。
「そんなことより。今日からあの子、俺の奥さんだから。そのへん、ゴリラとかにもよろしく言っといてよねー」
そう言いながら土方の傘を差し、手を振って去っていこうとする銀時の背中に沖田は声をかけた。
「結婚するならそのゴリラに許しもらった方がいいんじゃないですかぃ?」
沖田の言葉に銀時は振り向きもせず「そのうちなー」とだけ返して激しく振る雨の中を去って行った。


                END

BGM
中川翔子『雨にキッスの花束を』

後日談(過去拍手から移転)

「あの、さ、近藤さん」
「おう!どうした!トシ!!」
「話があんだけど…」
「いいぞ。何だ?」
「俺さ、結婚しようと思うんだ」
「えぇぇぇぇぇ!?誰と!?」
「あのな」
「うんうん!!」
「銀時と」
「はい?」
「俺、銀時と結婚しようと思うんだ」
「…えーっと…」
「あれ?どうしたんでぃ?近藤さん。ゴリラが呆けたような顔しちまって」
「総悟!ちょうどいい所に来た!銀時って誰だっけ?」
「何言ってんでさぁ。それぁ万事屋の旦那の名前ですぜぃ?」
「だよな!?俺間違ってないよな!!?」
「なんですかぃ?」
「だってトシの奴が銀時と結婚するって!!」
「あぁ。はいはい。その話ですか。っていうか土方さん。そういうのって万事屋の旦那があんたをくださいって近藤さんに頭下げにくるもんじゃねぇのかぃ?」
「いや、あいつはそういう面倒そうなことしねぇだろ」
「あー、旦那の土方さんへの愛もその程度ってことですね」
「え?」
「だってそうでしょ?男同士で結婚なんて、法律上できねぇんだから、いわば口約束みてぇなもんでさぁ。ってことは土方さん。あんたただの都合の良いキープくんですぜ?」
「そ、そうなのか…」
「そうですよねぃ?近藤さん!」
「(なんか総悟の目が怖い…!)う、うん!俺もそうだと思うな!!」
「だから結婚なんてやめちまいなせぇ」
「…そういえばそうだよな。男同士で結婚なんてできねぇもんな…。そっか…」
「あ!ちょ!?トシーーっ!?総悟!トシのやつ顔面蒼白でどっか行っちまったぞ?」
「けっ!あの二人がベタベタバカップルになったって俺にはなんの楽しみもないんでぃ!このまますれ違って別れちまえばいいんでさぁ」
「いやいやそれって可哀想すぎない!?」
「さぁねぃ!どうせ旦那のことですから、また土方さんを上手いこと言いくるめるに決まってまさぁ」


  END
Report abuse